すべてオーケストラが良いわけじゃない
前項までと正反対じゃないかというような見出しをつけてしまいましたがw
全部の曲がオーケストラ演奏なら良いってもんじゃない、というようなニュアンスです。それじゃシンセサイザー音源のままが良いのか?というと、それとも違います。
その楽曲とゲーム自体に合った演奏で、と思っているのです。
Ver.2以降の曲のオーケストラ化をわたしが強く望んでいるのは、多くがオーケストラ演奏に合う曲調だからです。
たとえば、偽レンダーシア大陸のフィールド曲「失われた世界」を聴きながら、ブレイブストーンで真レンダーシア大陸に移動するとします。するとフィールド曲「晴れわたる世界」が流れ出すのですが、偽レンダーシアでは深みのあるオーケストラ曲だったのに、真レンダーシアに移動した途端「ファ~~~」って感じの軽いシンセサイザー音源が響き渡るんですよねw
聞くところによれば、すぎやま先生はこの「晴れわたる世界」を、最近の曲の中でも結構お気に入りだったらしいんですよね。メロディ自体はわたしも好きなんです。だけど他の場所ではオーケストラ曲を聴き慣れていることもあり、真レンダーシア大陸で流れるシンセサイザー音源は、あまりに浮き上がって聞こえるのです。そこが残念だなぁと思い続けて、すでに8年経過ですw
それ以外でも、たとえばアンルシアの勇ましい戦いなどに流れる「勇者アンルシア」も、オーケストラ版だともっと重厚で素晴らしいんだろうなと思っています。各バージョンのラスボス曲などもそうです。戦闘前のムービーで迫力のある音楽を聴いていても、戦闘に入ると力が抜けてしまうように感じることもあります。
全ての曲がシンセサイザー音源であれば、そこまで気にはならなかったでしょう。もともとはオーケストラ音源でドラクエシリーズをプレイしていたわけではありませんし、交響組曲を聴くときと、ゲーム中に音楽を聴くときは、切り離して考えていました。前者はしっかり鑑賞するものとして、後者はゲームを遊びながら聴く音楽として、それぞれ楽しんでいたわけです。
ところがドラクエ10では、大半がオーケストラ音源なのに、中途半端にシンセサイザー音源が残っていることで、妙に悪目立ちしてしまうのです。特にストーリー上の重要な局面であったり、大事な戦闘などで流れるシンセサイザー音源は、ちょっと集中を欠いてしまうほどです。
オーケストラ化を望んでいるのは、そういう重要なシーンやフィールドで流れる曲の話であって、たとえば「ずっこけモンスター」(怪獣プスゴンなどの戦闘曲)のようにコミカルな曲は、現状のシンセサイザー音源のままで全く差し支えないと思っています。
あとは過去作の楽曲で、ゲーム音源と交響組曲のアレンジが全く異なるものもあります。そういう曲に関しては、オーケストラ音源を使用するのでなく、元のゲームで使用されたアレンジに近い方向で実装してくれないかな、という思いもあります。これこそが見出し「すべてオーケストラが良いわけじゃない」の真意なんですw
その「アレンジが全く異なる」のが顕著な例を挙げますと、ドラクエ6の通常戦闘曲「勇気ある戦い」と、同じ作品の塔で流れる「迷いの塔」です。前者は、ドラクエ10ではアストルティア防衛軍や一部ボス戦で使用されています。後者はVer.6.0の時点でドラクエ10内では使用されていません。
ドラクエ6は、1995年にスーパーファミコン(SFC)で発売されました。現在のドラクエ10では、ゲームデータの容量は数十GBですが、このSFC版ドラクエ6の容量は、わずか32Mbitです。メガバイトではなくメガビットです。8で割れば換算できます。なんと4MBしかありませんw
その容量内にオーケストラ音源など乗せられるわけもなく、シンセサイザー音源ですら不可能です。かといって、ファミコン時代のように同時に3音しか出せない程まで厳しい制約はありません。音楽に関する部分は32Mbitのうち2Mbitまで使える状況でした。もっとも現在の視点からいえば制約だらけなんですけどw
そこでドラクエ6の開発においては、サウンドエンジニアに崎元仁さんを起用し、専用のサウンドドライバまで開発したそうです。崎元さんは、それまで植松伸夫さんが長く担当されていたFFシリーズのメイン音楽を、FF12において初めて担当されたことでも有名ですが、ドラクエシリーズとFFシリーズの両方の音楽に携わったというのは、きわめて珍しい経歴でもありますね。(今では知らない人もいますかね? SFC版ドラクエ6発売当時、FFシリーズのスクウェアと、ドラクエシリーズのエニックスは別会社だったんですよw)
ドラクエ6の音楽については、よく「FFっぽい」という形容をされることがあります。メロディ自体は間違いなくすぎやま先生の持ち味なんですが、前述の「勇気ある戦い」や「迷いの塔」などのアレンジはロックに近く、かなり激しいドラムやベースの際立つ曲も多い印象で、崎元さんの参加も含めて、そのあたりも「FFっぽい」と言われるゆえんなのでしょうか。
このサイトをよくご覧頂く方はご存知のように、わたしはFF14に関しては(休止することが多いものの)わりとベテランの域ではありますが、それ以外のFFシリーズは全くやったことがありません。だからFFシリーズの音楽も、FF14でも使用されている曲以外は全然わかりませんが、その知ってる範囲の狭い知識でいえば、すごくかっこいい曲が多いなと思っています。曲だけでなく歌も入っていますし。
ドラクエシリーズは基本がクラシック調ですが、FF14は現代風というか、激しい曲も結構ありますね。FF5の曲で、FF14でもギルガメッシュ討滅戦で使われている「ビッグブリッヂの死闘」なんて名曲だと思いますし、ヒカセン的には「天より降りし力」や「逆襲の咆哮」、漆黒では「貪欲」なんて聴くと、テンションがグイグイ上がりますw
そのFF14で音楽を手掛け、プレイヤーから絶大な人気を誇っている作曲家が祖堅正慶さんなのですが、そのお父様である祖堅方正さんは、NHK交響楽団の主席トランペット奏者として、ドラクエ1~2の交響組曲でも演奏されていたという、意外な繋がりもあります。
今年他界した親父がドラクエ1と2のサントラのトランペットを吹いてたという驚愕の事実。やるじゃねえか、親父!
— ニー祖堅 (@SOKENsquareenix) December 31, 2013
ちょっと話があちこちに飛びましたがww
ドラクエの音楽はクラシックを基調として作られているため、オーケストラ演奏が合う曲が多いことは事実ですが、ゲーム音楽として考えたときに、必ずしもオーケストラ演奏バージョンが「ゲームに合うとは限らない曲」もあります。
すぎやま先生は「クラシック音楽の専門家」なのか?といえば、全くそうではありません。
元はフジテレビのディレクターという経歴の持ち主で、ドラクエの音楽以外にも、数多くのCM曲、映画やドラマ、アニメなどの劇伴、中央競馬のファンファーレに、「花の首飾り」など、ザ・タイガースの楽曲の多くや、「亜麻色の髪の乙女」といった、ヒットソングも数多く手がけておられますし、演歌以外なら何でも作れるといわれるほどの天才作曲家です。ドラクエ用に作られた曲でも「Love Song 探して」や「サンディのテーマ」など、全くクラシック調でないものもあります。
ドラクエシリーズの交響組曲は、すぎやま先生はその制作を30年来のライフワークとされていたこともあり、クラシック調でない楽曲にもオーケストラ用にスコアが書かれ、各地で演奏が続けられてきましたが、そのオーケストラ用のスコアというのは、それをそのままゲームに乗せるために書かれているわけではありません。
ドラクエ6は2010年、ニンテンドーDSでリメイクされましたが、その時はオーケストラ音源ではなく、内蔵音源が使われました。そして「迷いの塔」や「勇気ある戦い」のアレンジは、交響組曲版準拠ではなく、SFC版を強く意識したと思われるような形で作られていたのです。それは当然スタッフが勝手にそうしたはずもなく、すぎやま先生ご自身も監修された上で、OKを出されたはずです。
それではここで、YouTubeでちょっと面白いアレンジを見つけましたので、ご紹介してみます。
なんとメタルギターアレンジです。
ドラクエの音楽はクラシック調だと思われていますが、このように激しいロックにアレンジをしても、曲の魅力を損なうことなくぴったり合う、それだけ強いメロディを持っているのです。
このメタルギターアレンジをそのままゲームに乗せてみよう、とまでは言いませんが、たとえばギミックがリズミカルに炸裂するようなダンジョンでは、ロック風アレンジの「迷いの塔」を使ってみたり、新マップのフィールドで強敵が登場するエリアなど、ビートの効いたアレンジの「勇気ある戦い」や「魔物出現」を使ってみたり、オーケストラ音源をそのまま乗せるだけではなく、そういう挑戦的な試みがあっても面白いんじゃないかなと思うのです。
ところで、わたしは以前から「勇気ある戦い」が大好きだったのですが、それがドラクエ10のコンテンツ・アストルティア防衛軍で使われていると聞いたとき、大丈夫かな?と思ったものです。確実にオーケストラ音源を使うでしょうが、オーケストラ音源はドラクエ6のゲーム音源のようなロック風でもなく、前奏も長いからです。
結果的には、使用されたのがアストルティア防衛軍で良かったという感想です。
防衛軍はすぐに戦闘には入りませんから、それぞれ準備しながら敵に向かって走っていく、その過程で前奏の長さを生かせていましたし、ああいうタイプの長時間戦闘では、ロック風よりクラシック風の方が合うようにも思えるからです。それ以外もボス戦、集団戦など、そういう時間のかかる戦闘シーンでのみの使用でした。仮に新バージョンのフィールド戦闘曲など(もっと短時間で終わる戦闘)で使用されていたら、たぶんオーケストラ版のままでは合わなかったと思っています。
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