リナーシェとヴィゴレー
リナーシェ自身が「完全なる政略結婚」と言っているように、誰がどう見ても政略結婚であることに疑いの余地はありません。
「歌姫の絶望」のストーリー冒頭で、ジュレド王国へ招かれて、育みの歌を披露するシーンがあります。枯れそうだった作物が次々に活気を取り戻し、力強く実るのですが、このシーンで国王ヴィゴレーも、随行している王弟カルーモも、その結果を見て驚嘆しています。純粋なカルーモからは、素直な驚きと敬愛が見て取れるのですが、ヴィゴレーはその悪人顔から、ちょっと何を考えているのかわかりづらい、どこか裏があるように見える部分もあります。
そしてリナーシェも、表面上はニコニコしていますが、かなりしたたかな面があることは、Ver.6.0で利用されたこともある、わたしたち主人公はよく知っているはずです。
リナーシェは交渉に長けているところがあり、この育みの歌も交渉の切り札でもあったのでしょう。自分がこのチカラを持っている限り、ジュレド王国もあからさまにコルレーン王国を見下すようなことはできまいと、このチカラを最大限に利用し、軍事力では劣るコルレーン王国として、ジュレド王国とあくまで「対等な立場」で統合させるため、有利に事を進めたい思惑があったと推察されます。
リナーシェの回想でも、その本心は隠されたままなのですが、リナーシェの部屋にある本棚には日記があり、そこには16歳の女王として、敵国ジュレド王国へ単身、和平交渉に赴いた際の本音が書き記されています。
このリナーシェという英雄は、Ver.6.0で初登場したとき、一部でキャバ嬢とまで言われていたんですよねw
確かにこの見た目で、しかもシナを作って「盟友さまぁ」と言い寄ってくるその様子は、わたしは実際の「キャバ嬢」さんをよく知りませんけれども、一般的に世に言う「キャバクラ」のイメージではありますね。決して表に本心を出そうとしない、表面上の笑いなんかも、そんな感じに見えます。
そういうミスリードをさせてしまう演出がニクイですよねっw
正直なところ、Ver.6.0でリナーシェと行動を共にした時は、この人物は何か裏がありそうには思ったものの、まだつかみどころもない印象でした。それは、Ver.6.1が公開される前に投票が行われた「第10回アストルティア・クイーン総選挙!」の結果にも、よく表れていますよね。
Ver.6.0の時には、正直あまり好感をもてなかったキャラでしたが、この日記を読んだ時は、リナーシェに抱いていた負のイメージが一変し、その内容には胸が詰まるような思いがしました。
ちょっと話が飛びますが、いろいろあって最後の最後では、今までのような「盟友さま」ではなく「ルナクルさま」と呼んでくれましたし、やっとわたしに心を開いてくれたのかなとも思っています。
一方のヴィゴレーですが、この人は本当に謎です。あまりにも謎すぎて、今回の記事を書いたようなものです。ずっとリナーシェのことばかり書いてきましたが、この記事の主人公はリナーシェではなくヴィゴレーなんですw
リナーシェとヴィゴレーの間に「愛」はあったのでしょうか……?
両者が政略結婚と認識して結婚するわけですし、この後に起きる「結果」を見ても、そこに愛など存在するはずもない、と思うでしょう?
ここでちょっと日本史に話が飛びますが、和宮親子内親王をご存じでしょうか。仁孝天皇の第8皇女(孝明天皇の妹)で、有栖川宮熾仁親王と婚約していたのですが、結果的にその婚約は解消され、江戸幕府第14代将軍である徳川家茂に嫁いでいます。これはまさしく時の幕府と朝廷による政略結婚そのもので、公武合体政策ともいわれます。
この話を長く書き始めると、もう一体何のブログなんだかわからなくなりますので、かいつまみますが、明らかに政略結婚でありながら、和宮と家茂の夫婦仲は悪くはなかった、と伝えられています。政略結婚だからといって、必ずしも仮面夫婦ばかりではないのです。
リナーシェとヴィゴレーも、確かに政略結婚ではあったものの、ウェディの統一国家を作る、同じ種族間での争いをなくす、という理念は、ふたり共通していたでしょう。ヴィゴレーはヴェリナードという新国家の初代国王となり、初代王妃となるリナーシェの育みの歌により、ウェディに富と繁栄をもたらす。そして、統一国家はとこしえに続いていく、その礎となる……はずだったのです。
国家としての損得勘定でいえば、リナーシェにもヴィゴレーにも利はあるのです。しかし結婚ですから、お互いに愛がなければうまくはいきません。
はたして、リナーシェとヴィゴレーの間に「愛」はあったのでしょうか?
前述のリナーシェの日記はもう1冊あり、そこには次の内容が書かれています。
単純に政略結婚であり、愛情など持つはずもないのであれば、ヴィゴレーはなぜ「何ヶ月も 砂まみれになって」まで、希少な石を探したのでしょうか。そんなことをしなくても、愛のない結婚であれば、それこそ国王なのですから、誰かに取りに行かせるなり、市販の指輪を買うなり、適当な形で済ませることもできたはずだと思うのです。
その事実をカルーモから聞かされたリナーシェは、「彼に 愛を返そう」「誠意を尽くそう」と決意するのです。リナーシェにとってヴィゴレーは、決して彼女にとって「好みの男性」ではないように見えます。結婚はあくまでコルレーン王国の民のためであり、アリアのためなのですから。それでも、ヴィゴレーのこうした秘密を知ることで、ヴィゴレーからの愛を彼女なりに感じ取り、なんとかそれに応えようとした……という心情が、日記から読み取れます。
逆にヴィゴレーにとって、リナーシェが「好みの女性」だったかというと、やはりそうではないように見えます。ヴィゴレーという人物は征服欲や独占欲が強いといいますか。どちらかというと夫唱婦随、悪く言えば自分の言いなりになる女性を妻にしたいような気持ちがあったのではないでしょうか。リナーシェの物腰は柔らかでも一国の女王です。少なくとも「言いなり」にできるタイプではない。しかも国の繁栄を一手に担えるほどの強大なチカラを持っている…
リナーシェが「愛を返そう」と決意したのと同様に、ヴィゴレーも結婚を申し込み、それによって国家の統一を考えた以上、「妻を愛するように努めよう」という気持ちがあったのかもしれません。単純に「リナーシェを好きだ」という理由で求婚したわけではなく、互いに政略結婚と理解した上での結婚ですから…
おそらく、希少な石を探していた時のヴィゴレーは、様々な思いが去来していたのでしょう。単純に「好きな女性にプレゼントしたい」という気持ちだけではなかったように思います。ところがカルーモは、この人は見た目からも素直で誠実な人物だと推察されますので、ストレートに「好きな人にあげるプレゼントを一生懸命に探している」と、その兄の姿から感じ取り、そういう意図でリナーシェに耳打ちで伝えたのではないかと思われます。
そして、その耳打ちする弟の姿を見て、ヴィゴレーは「顔をしかめている」のです。「照れくさそうにしている」ではなく「顔をしかめている」のです。それも、耳打ちする弟の方を見て、です。
リナーシェの日記の文面からは、この何気ないやり取りから、ヴィゴレーの自分に対する「愛と誠意」を感じ取り、自分も「愛を返そう」と決意する様子が描かれているのですが、実際には、ヴィゴレーにはある種のどす黒い感情が芽生えつつあったのではないかと。これは完全にわたしの憶測にすぎないのは言うまでもありませんがw
そしてヴェリナード城が完成し、明日はいよいよ結婚というその夜に、ついにそのどす黒い感情が爆発したのか、事態はとんでもない悲劇へと向かってしまうのです…
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